声優名
綺音
[
声優詳細情報
]
価格
2139円
文字数
9050文字
サイズ
21637.3 KB
公開日
2022年6月2日
声のタイプ
【NEW!】冷静なメイド
ファイル形式
mp3
売れ行き
この作品の販売回数 :
0回
作品内容
敗戦開城・北の方身代り切腹の朗読音声
台詞
敗戦開城・北の方身代り切腹
宮坂 三郎
志津どのは大きくうなずき、軽く三つ指突いて一礼すると、やおら扱帯を緩めてぐいと押し下げ、両腕を袖口にくぐらせてするりと双肌を脱ぐ。白く滑らかな肩から形良く張り出した乳房(ちぶさ)、その脇にはみ出している豊かな黒い腋毛から、くびれた細腰のあたりまで、女盛りの色気を見せて衆目の前に曝される。ほーっと声なき声が場内に流れるのを、志津どのは端正な頬に不敵な笑みを浮かべながら、腰布の紐を解いて扱帯もろとも広く張った腰骨まで押し下げ、ふくよかな下腹を臆することなく露わにした。
女といえども城主名代としての切腹。雪のような上半身を作法どおり肌も露わにおし脱ぎ、いざ掻き切らんと充分に剥き出した腹は、深く形よい臍のくぼみを囲んで餅のようにふっくらと盛り上がり、その下腹の丸みの尽きんとするあたりには押し下げた腰布の上に黒々とした恥毛がちらと覗き、両腋窩の豊かな繁みとともに雪白の肌と鮮烈な対照を見せて艶めかしい。
当時の奥羽地方では、武士の一族は女子供に至るまで自害は切腹が通例であり、その方法にも後世のような形式的な作法はなく、男も女もただ腹を存分に切り開き、臓腑を露出して己の真情を示して果てるのが真の切腹とされており、その際にどのような声を上げて長時間呻き悶えようとも見苦しいとは言われず、かえっ壮絶な切腹よと賞賛された。従って切りようもさまざまで、通常はまず充分に剥き出した下腹の左腰骨のきわに刀を突き刺して、臍の下一寸五分から二寸、ちょうど腹の一番広いあたりを横切って右脇腹まで真一文字にかき切り、一呼吸して刀を抜き、刃を下向けに持ち替えて水落ちに刺し、腹の中心線を縦に横骨に当るまで切り下げて十文字にする。この時、刃を上に向けて恥部から鳩尾へ切り上げるのを逆十文字と言う。いずれの場合も上腹部は浅く、臍の辺りより下は充分に深く切り裂くのを口伝とする。また左脇腹を肋から縦に三寸切り下げ、刃を捻って右腹まで引き回し、再び刃を捻って右肋まで切り上げるのを鈎十文字と呼ぶ。いずれの場合も切口は大きく開いて血潮と臓腑が溢出し、そのままでも間もなく絶命するが、なお気力体力の残っている者は、死を早めるためと武勇を誇示するために、溢れる腹綿を掴んで繰り出したり、更に二文字、三文字に掻き切ったり、あるいは脇差で腹から背まで貫いたり、引き出した臓腑を切断して心の丈を示すなど、おもうままに腹を屠って最期を飾ったのである。されば志津どのも、女ながらまず作法どおり充分に腹をあらわして覚悟を見せたその姿に、居並ぶ一同は、さてどのように腹をなさるのか、女でも満座の中で城主名代としての切腹ゆえ、少なくとも十文字に切り臓腑を出さねばならず、それでも死にきれぬときは最後のとどめはどのようになさるのかと、あれこれ思いめぐらしながら息を呑み身をこわばらせ、志津どのの一挙一動にぎらぎらと眼を光らせている。
その男たちの突き刺すような視線を受けながら、志津どのは少しも動ずる気配もなく、どうせ数刻後には屍となって、戦いの定法通り素裸で大の字に磔けられ群衆の前に曝されるこの身、生あるうちに女の色香を存分にごらんあれとばかりに、眼を伏せ胸を張り、両手を腰に当てて上半身を反らせる、その桜色の頬と濃いめに紅をさした口許には妖艶な微笑が漂っている。
やがて意を決したように眼を開くと、右手を伸ばして膝前の腹切り刀の中巻きをぐいと逆手に掴んで右腿の上に置き、左の掌を下腹に当てて、切るべきあたりをゆっくりと撫で回す。唇が動いた。
「では腹つかまつりまする。城主として、かつ亡き夫の身代りとして作法通り存 分にいたしますゆえ、何とぞ最後まで御見届け下さいませ。なお見事切りとげし上は城内一同助命のこと、重ねてお願い奉りまする。されば御免」
これから腹切る者とは思われぬ落ち着いた声に、見守る者たちのほうが気押されて思わず視線をそらす。その中で目を半眼に閉じ、気力を昂めるべく腹おし撫でている志津どのの左掌の動きが次第に速くなり、それにつれて頚筋から胸の谷間にかけて白い肌が次第に艶めかしく桜色に染まってくる。
軽く開いた唇からもれる呼吸が次第に荒くなり、
「はっ…はっ…はっ」
それと共に乳房が波打って先端の乳首が固く突き立ってくるのが分かる。居並ぶ男たちも息を荒らげ、早くも袴の下で男根を勃起させている者もいる。
充分に気を昂めた志津どのは、やおら腰を浮かせて膝立ちとなり、白無垢の裾が開いて雪のような内腿の肌が露わになるのも意に介せず、両腿を大きく割って膝頭にしかと力を込めながら、ぐっと身を起こし腹をせり出すようになさると、視線を伏せて自分の腹を見ながら、左の腰骨の際に当てた掌の指の間に右逆手の腹切り刀の切っ先をぴたりと当てた。いよいよ切腹、と見たとき、再び志津どのの声が静まり返った場内に流れた。
「女のことゆえ、万が一にも腹切り損じぬために家伝の重ね切りを仕りますれば、 とくと御覧の上、後日の語り草となされませ。いざっ」
右腕にぐっと力がこもったと見えた時、三寸余り巻き残した腹切り刀の切っ先は瓜を割るようにざくりと左脇腹に切り込んだ。
「ムッ……」
うっ、と低い声が洩れたのは苦痛の呻きではなく力を込めた気合であったのであろう、志津どのの姿勢も表情も びくりとも動かなかった。刃の光は一寸ほど腹中に没している。二度切りというからには最初は広く浅く充分に切り回すつもりか、その顔には少しも苦痛の色は無く、口許には快げな微笑さえ浮かんでいる。
志津どのは上体を反らせた姿勢のまま、左手も白布に握り添えると、刃を腹に垂直に立て、一寸ほどの深さを保ったままきりきりと一気に右に引き回した。
「ウムーッ、ウッ……アア……」
艶やかな下腹の肌が横一文字に切り裂かれ、だらだらと流れ出した鮮血が簾のように右下腹を伝い流れて白無垢に吸い込まれてゆく。
刃は臍の下二寸ばかりの最も豊かなあたりで、深く形良い臍から股間へ走る薄黒い正中線をぷっつり断ち切り右腹へ切り込んだ。いかに深さ一寸足らずの浅腹とはいえ、苦痛の無いはずはない。しかし志津どのの姿勢にも表情にも最初からいささかの乱れもなく、きっと見開いた眼と、やや緩んだ唇の間から見える鉄漿をつけた前歯が妖しい色気を見せている。女は一旦覚悟を決めれば、これほどまでに気丈なものであろうか。それとも、女の身で一命を捨てて城兵一同を救うと言う大役を果たす喜びに苦痛など感じていないのか。利正はじめ居並ぶ男ども一 同、水落ちが締め付けられるような感じに身を強張らせている。
左の腰骨から右の脇腹まで、ふっくりと張り出した女腹を一尺近くも切りまわした志津どのは、刃先を右腹に留めたまま左手を離して左脇腹に当て、真一文字の切口を誇示するように背筋を伸ばし胸を張った。心なしか頬はやや蒼ざめているが、半眼に閉じた目元とやや開いた唇には、恍惚とした陶酔さえ浮かんでいるようである。腹の切口は上下に捲れるように五分ほど開いて、その間から黄色い脂肪がはみ出している。鮮血は依然として切口全面から糸を引いて流れ落ち、太腿の付根の溝を伝って股間へと流れ込んでいる。そして――志津どのの正面の床机に掛けている利正と、その左右に並んでいる数人の武者たちは確かに見た。豊かな胸の乳首が先ほどより更に固く突き立ち、乱れた裾から覗く内腿の肌を伝って一筋二筋、透明に光る液汁がつーっと流れ落ちるのを...。
それは明らかに志津どのの股間から溢れ出ている快美の泉の滴りであった。女は腹を裂く苦痛を自虐の恍惚に転化させることができるのか。この凛とした美女の心中に今どのような淫らな情感が駆け巡っているのであろうか。男たちは情欲より戦慄が背筋を走る のを覚えた。
眼を閉じたまま、しばしその姿勢で一呼吸二呼吸した志津どのは、
「はッ、は……はッ……はッ……はは」
やおら眼を開くと右腹の腹切り刀をすっと抜き取り、再び刃を左に回して左手も中巻きに握りそえ、うつむいて腹の切口を見ながら、一寸ほど血に染まっている切っ先を左 脇腹の切口の左端に当てると、ためらうことなくずぶと突っ込んだ。
「ウーッ」
既に半ばまで切り裂かれている腹の脂肉はたやすく刃を受け入れて、巻き残した切っ先三寸は余すところなく腹中に没し、中巻きを握る拳が切口に触れている。
「ムッ」
むっ、低く呻いて志津どのは面を挙げた。その顔からはさすがに先ほどまでの微笑は消え、眼を閉じ、唇をきりりと結んだ凄艶な表情に変っているが、未だ苦痛の色は見えず、昂然と胸を張った姿勢もそのままで、浅いながらも下腹を真一文字に走る切口から流れ続ける血潮が信じられないくらいである。
一呼吸した志津どのは、
「はッ、は…アッ、アアアッ、アーッ…」
腹切り刀の中巻きを握る両腕に力を込めると、刃を最初の切口に沿って、捲れ出ている脂肪の間に覗く腹肉を、ぶりぶりと右へ引き回し始めた。
「ウッ、アッ、せ、せっぷく、この通り。うッ、うーむ、あーッ……」
時々びくりと体が震え、青く剃った眉の間にかすかな縦皺が寄るのは 切っ先が臓腑に触れたときか。さもあろう。最初の切り回しと合せれば四寸近い深腹である。しかし志津どのの姿勢は端然として乱れない。小なりとはいえさす が一城の城主の北の方と、見入る一同、手に汗を握って感嘆した。
よどみなく重ね切りに腹を割いてゆく志津どのは、臍の左下で一旦刃を止めて 一呼吸なさった。雪白の左下腹を深々と割いた切口は弾けるように開いて菜種色の脂肪と真っ赤な肉を見せ、その間から泉のように流れ続ける鮮血と共に桃色の小腸がひくひくと出入りしている。
「ウッウッウッ、アア、は、はらわたが出まする」
しかし志津どのは、顔色こそやや蒼ざめ、額は玉のような汗が噴き出て御苦痛のほどを示してはいるものの、依然として端然たるお姿を崩さぬまま、再度両腕に力を込めると、ぐいと一気に臍から下へほの黒く走る正中線を断ち切って右腹へと切り込んだ。
「ナ、ナンノ……ムッムッ……ウッ」
その時である。突然、志津どのの全身がびくりと硬直した。眼と口が大きく開き、ついでぎゅっと固く閉じ眉を寄せて、明らかに激しい情動に耐えておられる表情であった。
「くうーっ」、
絞り出すような苦鳴が唇を割り、次の瞬間、静まり返った場内に音を立てて、開いた股間から淫水が床に迸った。
「ああ、こ、こんないい気持ちは……は、恥ずかし……」
元来、臍の下には膀胱に続く系脈があり、これを断ち切ったときには異様な衝撃が股間に響いて、男は勃起して精を洩らし、女は潮吹きしてしまうことがしばしばあり、 少しも恥じることではないのであるが、やはりこれまで大名の北の方であられた志津どのにとっては、満座の男たちの前で、まして裸身での切腹中の潮吹きは思いがけぬ不覚であったのであろう。透き通るような志津どのの頬から乳房に掛けてのお肌がさっと紅に染まり、それまで端然と正面を向いておられたお顔に無念と羞恥の表情がありありと見て取られた。しかしあとから思えば、この時の屈辱感が、その後の志津どのの割腹をさらに壮絶なものにしたのかもしれない。
再び気を取り直し、きっと姿を正された志津どのは、刃を握る両腕に力を込め直し、おうっと気合もろとも体を捻るようにして、残る右腹をぶりぶりっと一気に、腰骨に達するまで掻き切ってしまわれた。
「ウッ、アッ、キ、キレル……切れる…アッ…さればいま一息で一文字に…うーむっ」
そして切り開かれた一尺近い傷口からどっと溢れ出す鮮血と腹綿をものともせず、ぐいと右腹から引き抜いた刃を、息も継がず水落ちにぶっつり突き立て、
「ああ、ではこれより臍上から縦に股まで切り下げて、腹十文字に断ち割り、女の命のありどころをことごとく御目にかけますゆえ、…あっ、うーむっ…」
左手を刀背に掛け、かっと見開いた視線を宙に向け、くーっと呻きながら刃にのしかかるように力の限り押し下げた。
「えいっ ぎええっ」凄まじい呻き声
「いいいい、いくっ、あーっ、いくっ」
刃は正中線に沿って臍を割り、横一文字の切口と交わり、はみ出しかけている腹綿もろとも下腹を深々と両断して恥毛の繁みまで切り込んで横骨で止まった。
さすが 城主の北の方、女ながらも見事な十文字腹に、見守る一同の口から期せずしてお おという嘆声が漏れる。
これまで膝立ちの姿勢を崩さず腹を切り続けてきた志津どのであったが、さすがにここで腰をがくりと落して前かがみになり、しばらく顔を伏せ肩を波打たせて荒い息をついておられたが、
「はッ、はッ、は……は……は…うーむっ」
やがて血まみれの左手を膝に突き、じりじりと身を起こしていった。そして下腹から短刀を引き抜いた右手をも膝に置き、両手で 上半身を支えて再び正面に向き直り姿勢を正されると、お腹の凄惨な切口が皆の前に露わに曝された。再び場内におーっと声にならない呻きが湧いた。
先程まで絖のように白く滑らかだった志津どののお腹は、重ね切りの深腹に加えて臍下を縦に割った十文字の切口が大輪の牡丹のように開き、泉のように湧き出る血潮と共に桜色の小腸が一塊となって溢れ出て両腿の間を埋め、ぬめぬめと蠕動している。
「ああ、お腹より……ついに、はらわたが……ああ、はらわたが……」
さらに臍の辺りからは、これがあのお美しい腹中にあったのかとは思われぬような、腕ほどもある太い黄褐色の大腸がむくりと膨れ出し、呼吸につれて次第にその妖しい姿を現わしてくる。流れる鮮血は腰から下の白無垢も太腿も蘇芳(すおう)色に染め、さらに白布団の上にじわじわと広がってゆく。
その酸鼻な下半身とは対照的に、昂ぶりに固く突き立った乳房から上は血しぶき一つ見えぬ雪の肌が、滲み出る冷汗にまみれてさらに透き通るように白く、首筋から胸にかけて乱れたおくれ毛が数本べっとりと貼り付き、凄艶なお姿であるが、もはや苦痛の頂上は過ぎたのであろうか、それとも作法どおりに見事腹十文字に切り遂げて心安らがれたのか、先程の凄まじいお顔とは打って変わり、うっとりと半眼に目を閉じた表情には恍惚とした微笑さえ浮かんでいるように見える。それは女の切腹美の極みであった。
「はッ、はッ、む……城主の...せっぷく...いかが...」
低いが、しかし腹切った者とは思われぬ確かな声音であった。
「お見事、確かに見届け申した」
利正が唸るように叫んだ。その声が耳に届いたのであろう。志津どのの頬に明
らかな笑みが浮かび、見守る一同の背筋に冷たいものが走った。
「では...引き...出...物を...い、いざ... あーっ、うーん」
さすがに呼吸が苦しいらしく、一語一語しぼり出すように言うと、短刀を握った右手を膝についたまま、血まみれの左手を下腹の切口にずぶと挿し入れ、
「げえっ、ぐぐぐ…」
腹中に残る腸塊を掴むと
「うぐっ...ぐぐぐ...あっ、あっ」
と呻きながらずるずると引き出した。そして切口から抜き出した左手で握っている小腸の付根に、右手の短刀の刃を下から掬い上げるようにあてがうと、
「うっ...あうっ...う、うーっ!」
一期の絶叫と共に、ぶつぶつと断ち切った。しかし流石に弱った腕の力では銘刀の切れ味をもってしても、ぬめぬめと滑らかな生きわたを一気に切断することはできなかったが、それでも大半は主と切り離されてずるずると前に滑り出し、先に股間を満たしていた臓腑と合体して、あたかも新たな生を得た生きもののように一塊となってぞろぞろと白布団の上を這い、志津どのの膝の前にうずたかく積もって白い湯気を立てながらむくむくと蠕動している。それはあの形よく引き締まった志津どのの腹中に収められていたとは信じられぬほど大量で、一城の主の開城の引出物にふさわしく、つやつやと妖しく美しく光っていた。
「アッ……アアア……アッ……アーッ……アア」
腹筋を断ち、腹中の臓腑を失った志津どのには、もはやその上半身を支える力 が残っていなかった。ぐらりと体がゆらぐと、腹から離した両手をどさりと膝前に突いて、あたかも一同に辞儀をするように頭を垂れた。その右手には中巻きまで血に染まった短刀が、まだしっかと握られていた。そしてその頭のすぐ前の布団の上には、今の今まで志津どのの腹中にあった臓腑が、うずたかく盛り上がってうごめいている。
「ハッ……ハイッ!こ、これを——引き出物に……アアアッ、アーッ……ああ」
声も無く見守る一同、その視線の集注の中で、志津どのがゆっくりと頭を挙げ たが、そのお顔は先程までとすっかり変っていた。透き通るような蒼白な額に眉の剃り跡が一段と青く、薄く刷かれた頬紅と、入念にほどこされた鉄漿の黒さと その周囲にくっきりと引かれた口紅の赤が、この世のものならぬ妖艶さで人々の眼に焼きついた。
先程から男根を勃起させて見守っていた者たちは、たまりかねて褌中にしたた かに精をほとばしらせていた。
その中で志津どのの唇が、ゆっくりと動いた。
「はっ、ひっ、引き出物......お収めを......ああ」
一言ずつ切れ切れに、しかし最後まで明瞭な言葉で述べ終わると、志津どのは 力尽きたように再びがっくりと首を垂れた。膝前に突いた両腕の露わな肩が、
「はっ、はっ、はっ」
と大きく上下しているのが、一息、一息の苦しさを示していて、見る者の胸を締め付ける。
「お見事、引き出物たしかに見届けた。それ高井、松野、用意をいたせ」
利正に指名された両人、さっと立つと摺り足の小走りで幕外に姿を消す。選ば れた二人ゆえ、手抜かりなく最短時間で用意を整えて戻ってくるであろうが、それまでの場内は咳(しわぶき)一つするものなく静まり返り、聞こえるものは梢 を渡る風の音と、志津どのの荒い息づきと、時折洩らす
「うーーーーーーむ」
という悲痛な呻き声だけであった。前に垂れた志津どのの頭は徐々に下がってゆき、そのたびに懸 命に両腕の力を込め直して崩れ伏すのをこらえようとする健気なお姿は、お顔が見えぬだけ一層痛ましく、一瞬が一刻ほどの長さに思われるほどである。
高井はそのまま志津どのの背後に回り、膝をついて両腕を志津どのの脇に差し 入れて「引き出物、たしかに頂戴仕る」と声をかけながらぐっと抱き起こした。 既に気力だけで支えられていた志津どのの上半身は、背を高井の胸にあずけるように軽々と抱き上げられ、さらに高井が両腕を乳房の下に回して抱き上げるように体を反らせると、紅蓮華(べにれんげ)のように四方に開き、臓腑を引き出されてほとんど空洞となった無惨なお腹の有様が余すところなく一同の前にさらされた。志津どのは、もはや死相の明らかなお顔の唇をかすかに動かして何か呟かれたようであったが言葉にならなかった。そして仰向けに高井の右肩に頭を落とすとぐったりとなった。烈女の凄艶な知死期であった。
その間に松野は志津どのの前ににじり寄り、壷を据えるとうずたかく積まれた 腹綿を手際よく両手で掬い上げて壷に落とし込んだ。血まみれの腹綿は、まだむくむくとうごめきながら、ずるずると壷の中に滑り込んだが、まだ二三箇所の腸管が切れ残ってお腹の切口の中に続いている。松野はためらわず血みどろの白布団の上に膝を進めて志津どのの前ににじり寄り、右手差しを抜いて、お腹から壷へと続いている腸管をぶつぶつと切り離すと、あたりに散らばっている臓腑の断片とともに残らず壷の中に収め蓋を閉じた。
さて、こうして全裸にされ仰向けに横たわった志津どのの亡骸は、型の如く下半身から清拭が始められた。盥の湯を何度も取換え、布をすすぎながら血糊を拭き取ってゆくにつれて露わになってゆく志津どのの雪白のお肌の染み一つない美しさに、一同改めて息を呑んだ。血に濡れそぼった内股の柔肌から、切腹中の昂ぶりのために流れ出た乳色の淫液にまみれている恥毛を丁寧に拭い、さらに形よい割れ目を押し開いて丹穴の奥まで丁寧に清め参らせると、桜桃のような形よいさねたれがまだ固く突き立って志津どのの女の名残を止めているのが、女たちの目にも艶めかしく映った。
「女の切腹は、苦しき中にもまたえも言われぬ快さありと聞きましたが、まことのようですの」
と、一人が隣の女に耳打ちして頬を染めた。
さていよいよお腹の傷口を清めにかかる。切口は左の腰骨から臍の二寸ほど下 を右の腰骨に当るまで約八寸、縦は鳩尾から正中線に沿って縦長のお臍を割り、恥丘を埋めた漆黒の草叢の上縁に切り込んで横骨まで達していた。日頃武芸の稽古にいそしんでおられたせいか腹はさほど脂づいてはおられず、しかも二度切りをなされたので、厚さ二寸ほどの腹壁はほとんど全面に渡って完全に切り裂かれていた。腹腔内は肝、胃、腎、子袋、膀胱、それに大小腸の一部などを残してほとんど空洞であった。
志津の方の亡骸は、キの字形の柱に両腕両脚を広げた大の字なりの姿で縛り付 けられていた。雪のように白い裸身は、肩から乳下にかけて襷縄(たすきなわ)で、両腕の付根を黒々とした腋毛も露わに高縄で、手首を小縄で、また細腰を胴縄で、それぞれ固く柱と横木に縛り付けられ、また柱から突き出た三寸角の馬乗台にまたがらされた股間から、左右のすらりと伸びた両脚を八の字なりに開いてそれぞれの足首を足縄で横木に縛られており、あらがう力なき屍のこととて、いずれの縄も肌に食い込むほど固くいましめられているのが痛々しく見えた。そしてむき出しの腹には、縫い合わされてはいるものの生々しい傷跡が、臍の二寸ほど下の一番ふくよかなあたりを横一文字に八寸余り、更に水落ちから臍を割って横の切口と交わり、下腹を割って濃い恥毛の繁みに切り込むまで切り下げられた見事な十文字腹の痕を見せていた。このような美しくたおやかな奥方様が、この ような見事な割腹をなさったとは...と、見るものたちはいずれも息を呑んだが、さらに柱の下に置かれた白磁の壷に「献物、志津殿臓腑」と墨痕鮮やかに記されているのを見て、ほとんど目の眩むような衝撃を受けた。眼を据えたまま黙然と動かぬ男たち、地面に座り込んで合掌嗚咽する女たち。次第に濃くなる夕闇の中で、篝火の明かりに浮かび上がった志津の方の紅鉄漿(べにかね)を施された美しい死に顔が、がっくりと頭を垂れ、未だ去りやらぬ群衆を見下ろしているのが、中秋の夜の冷気に身震いするほど凄艶であった。
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